<予想外の接戦の立役者となった、新たな「トランプ票」とはどんな人たちだったのか。また、トランプ大統領が描く延長戦のシナリオとは? トランプ陣営内の情報に詳しい小谷教授が徹底解説>
トランプが退院後、ホワイトハウスで開いた集会に参加した「BLEXIT」支持者たち。黒人とヒスパニックも民主党から出よう(エグジットしよう)と呼び掛ける SAMUEL CORUM/GETTY IMAGES
事前の世論調査に反して接戦となった要因は? また、ドナルド・トランプ大統領が描く「逆転勝利」のシナリオとは──。トランプ陣営内の情報に詳しい小谷哲男・明海大学教授に本誌・小暮聡子が聞いた(取材は11月5日午前)。 【写真特集】ポルノ女優から受付嬢まで、トランプの性スキャンダルを告発した美女たち ◇ ◇ ◇ ――投票前の世論調査と比べて現時点での結果をどうみているか。 確かに各種世論調査が示していた状況とはやや違って、トランプ大統領がかなり踏ん張った感はある。しかし恐らく、このままジョー・バイデン候補が勝利を収めることになるだろう。かなりの接戦になったことで、トランプという存在が強く否定されなかったとも言える。 ――投票日を迎えるまで、トランプ陣営はこの選挙の筋書きをどのように考えていたのか。 最悪の事態に備えて弁護士も用意し訴訟に備えてはいたが、他方で法廷闘争に持ち込まなくても勝てるというのがトランプ陣営の基本的な考え方だった。その根拠として、前回の選挙に比べてこの4年間で共和党員として有権者登録をした人の数が民主党よりも圧倒的に多い、と。 8つの激戦州に限って言えば、約18万人多いというのが彼らの計算だ。その18万人を掘り起こして確実に投票してもらえれば勝てると考えていた。 ――訴訟に持ち込むまでもなく投票で勝てるとみていたのか。 そうみていた。コロナ禍において戸別訪問を地道に続けていたのも、有権者登録で増えた人たちを実際に投票させるためだった。トランプ自身もコロナに感染してもなお回復後に1日に何カ所も回るような支持者集会を開いて、とにかく投票しろと言っていた。 それによって、トランプは現時点で前回の大統領選よりも500万票も多く獲得している。ただ、勝利には手が届いていない。 ――今回も、事前の調査と実際の結果にはギャップがあった。 前回より調査の精度は上がっていたが、一番読み切れなかったのは、トランプ陣営が開拓しようとしていた新しい共和党有権者の動向だ。彼らが実際に投票に行くかどうかは最後まで分からなかったが、ふたを開けてみるとある程度開拓できていた。 ――新しく開拓されたトランプ票というのはどういう人たちなのか。 出口調査の結果などをきちんと分析してからでないと確かなことは言えないが、1つはトランプに希望を見いだした人たちだ。白人がこの先少数派になるという、その何とも言えない不安を抱えているときに、不安を払拭してくれるような政治家は今のところトランプしかいない。 また宗教面でも、バイデン自身はカトリックだが、彼の政策自体は中絶問題を含めてかなりリベラルなところがある。ヒスパニックには敬虔なカトリック信者が多く、フロリダの結果を見ていると、彼らはどうしてもバイデンに乗り切れなかったところがあったのではないか(編集部注:フロリダではヒスパニック有権者の47%がトランプに投票)。 ――全米の結果を見ると、今回トランプが獲得したヒスパニックと黒人票の割合は、前回の大統領選に比べてそれぞれ4ポイントずつ伸びている。 黒人票の行方も含めて、今回は「ブレグジット」という動きに注目していた。イギリスによるEU離脱のBREXITではなく、BLEXIT、つまり「BLACK EXIT」だ。 世の中には黒人やヒスパニックなどの有色人種は民主党支持という前提があるが、そこに違和感を持っている人もいる。この運動は、有色人種であっても民主党を出て(エグジットして)共和党に入ろうと呼び掛けている。トランプがコロナで入院して退院し、ホワイトハウスで演説した際、集まっていた支持者がBLEXITのグループだった。 彼らにとってみれば、今の民主党は左傾化が進んでいて、付いて行けない。また、自分たちは2度民主党に裏切られたという気持ちがある。まず、かつて奴隷制度を支持していたのは民主党だった。さらに、今の民主党では有色人種が求めていることには応えられないと考えている。 例えば、バイデンは上院議員と副大統領を務めてきたが、黒人の地位向上のために一体何をしてくれたのか、と。選挙直前に開かれた大統領候補者討論会でも話題になったが、バイデンは1994年の犯罪法の立案者であり、この法律によってちょっとした軽犯罪で投獄される黒人が飛躍的に増えた。副大統領候補のカマラ・ハリスも予備選では、バイデンが過去に人種差別主義の上院議員に協力したことを批判していた。 BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動にしても、選挙や反トランプのために行われているのであって自分たちのためではないと思う黒人もいる。自分が求めているのは暴動ではなくトランプが主張する「法と秩序」だという人もいる。 BLEXITは(陰謀論組織の)Qアノンほど注目されてはいないが、この運動によって数%でもトランプに票が動けば激戦州では絶大な影響力を持ってくる。 ――トランプ陣営の今後の戦略について。ここまで僅差の接戦となったことで、トランプは法廷闘争に持ち込みやすくなったのではないか。 コロナを恐れて投票所に行かずに郵便投票をする人は、共和党支持者よりも民主党支持者のほうが多いとみられていたため、トランプは郵便投票は不正につながると繰り返し発言し、いわば布石を打っていた。郵便投票の票数で勝敗をひっくり返されて負けたときには、郵便投票は不正であると主張するつもりだった。 トランプ陣営としては開票後のできるだけ早い時点で決着をつけて、その後に出てくる郵便投票の開票を止めようと考えていたようだ。それを今、実際にやろうとしている。 ――その作戦は、成功するのか。 私は、成功しないと考えている。最高裁に訴訟が持ち込まれた場合、民主主義の根幹に関わる話なので、トランプをおもんぱかった判断をすれば最高裁の権威も失墜するだろう。たとえトランプに指名された保守派の判事であっても、そこは常識的な判断を下すのではないかとみている。 最高裁首席判事のジョン・ロバーツや、トランプが任命したブレット・キャバノー、最近就任したエイミー・コニー・バレット両判事は、2000年大統領選でアル・ゴア対ジョージ・W・ブッシュがフロリダ州でもめたときに弁護士としてブッシュ陣営に入っていた。 そのためこの3人はトランプに有利な判断をするのではないかと言われており、トランプ陣営も期待はしているだろうが、あの時はブッシュ陣営に雇われている弁護士だったので当然ブッシュ側の立場で主張をしていた。今は最高裁判事という肩書であり、郵便投票をカウントしないという判断にはならないのではないか、と思う。
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